1、土地改良法改正案のニュース
2月2日付け朝刊の中国新聞に、「農業用のため池を所有者・管理者の同意なしに改修できるようにする」という内容の土地改良法改正案が今国会に提出される予定という記事が掲載されていました。
農業用ため池については「農業用ため池管理・保全法」という法律が2019年7月に施行され、ため池の所有者・管理者に都道府県への所在地や規模を届け出るよう義務付けられています。
しかし、そのような義務があるにもかかわらず実際には所有者・管理者が誰なのかよく分からない土地が多くあり、広島県では、県全体のため池のうち約4分の1が所有者・管理者の届出がないと試算されているそうです。
所有者・管理者が誰なのか明らかであれば、ため池を改修するうえで誰の同意を求めればよいかは明確です。
これに対して、所有者・管理者が誰なのか不明であれば、同意を得る前段階として現在の所有者・管理者が誰なのか探索して明らかにしなければならないという手間がかかります。
そのような手間を省くため、改正案には「国、自治体が豪雨で決壊すると民家などに被害を及ぼす危険があると判断して改修に乗り出す場合、所有者・管理者の同意や計画申請などの手続きを不要とする」内容が盛り込まれました。
2、記事を読んで考えたこと
(1)ため池の届出は必要?
この記事を読んで、ため池の登記手続に関与する司法書士の立場から考えると、相続等の登記をする際に、ため池の届出についても相談者にアナウンスすることが望ましいのかなと考えています。
と言いつつも、「ため池の届出」という制度があることは恥ずかしながらこの新聞記事を読んで初めて知りました。
「相続などでため池の名義が変わる登記をしたら市役所に届出を出す方が良いのか」という疑問が生じたので、勉強できる機会と捉えて、別件で市役所を訪ねた際に担当課の職員に届出は必要ですかと質問してみました。
答えは「こちらから名義を確認するお知らせがあったら届け出るというので良いです」とのことでした。
そういうことなら、ため池の届出が必要かについてはあまり神経質に考える必要はないのですが、自治体によって異なる取扱いかもしれないことに注意するほうが良いと考えます。
(2)「所有者不明土地問題」は身近なテーマ
「所有者不明土地」の存在は社会問題化しており、その問題がこれ以上大きくならないように相続登記が令和6年4月1日から義務化される予定です。
「所有者不明土地」が社会問題化した背景には、「所有者不明土地」が東日本大震災の復興事業で足かせになっていることが挙げられます。
「東日本大震災」というと広島県に住む私たちからすると少し遠いことのように思われるかもしれません。
しかし、「ため池」となると、全国の半数のため池が集中する瀬戸内地域にとっては身近なテーマです。私が事務所を置いている駅家町では、数年前に豪雨によるため池の決壊により発生した土石流で命を落とされた方がおられます。
ため池の所有者等が不明で改修の同意が得られない状況下、決壊などで水害が発生する現実的な危険を思うと、「所有者不明土地」を他人事と捉えることはできません。
(3)ため池の所有者の財産権にも目配りを
一方で、前述した土地改良法の改正案の「国、自治体が豪雨で決壊すると民家などに被害を及ぼす危険があると判断して改修に乗り出す場合、所有者・管理者の同意や計画申請などの手続きを不要とする」ことについては、「被害を及ぼす危険」とは、どの程度切迫したものを指すのか気になるところです。
なぜなら、所有者・管理者の同意は不要ということは、とりもなおさず、ため池の所有権を所有者の同意なく制限できてしまうことを意味するからです。
所有者不明とはいえ、探索の結果ため池の昔の所有者の相続人が見つかる可能性もあるはずです。
安易に危険性を認めて所有者らの同意を不要とすると、実際にはどこかにいるかもしれない所有者らの意思に反して所有権を否定することにもなりかねません。
また、国や自治体が危険性の有無を判断することについては、国・自治体が恣意的な判断をすることを防止する仕組みも整えるべきです。
広島県福山市駅家町大字万能倉734番地4-2-A
佐藤正和司法書士・行政書士事務所
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