【不動産登記法改正】相続人申告登記(令和6年4月1日施行)

2022年06月14日 14時00分 不動産

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1、行方不明者がいる遺産分割
 法定相続人Aさん、Bさん及びCさんが遺産共有する不動産についてAさん単独名義にしたいが、Cさんが行方不明のためCさんを含めた遺産分割協議協議ができない。
 この場合、家庭裁判所にCさんの不在者財産管理人の選任を申し立て、誰か(司法書士や弁護士など)に不在者財産管理人になってもらったうえでAさん、Bさん、Cさんの不在者財産管理人の三者で遺産分割協議をするというのがよくあるやり方です(Cさんの行方不明の期間によっては、失踪宣告申立という手段もあります。)。

 以前私のもとへ、行方不明者が法定相続人の一人になっている遺産について分割手続きを進めたいが、どうしたらよいかと相談に来られた方がおられました。
 そこで不在者財産管理人の制度について説明させていただいたのですが、何十万円もの予納金を用意しなければならない可能性があることがネックになり、不在者財産管理人制度を利用するかどうか判断を保留なさいました。

 他に良い方法を提案できなかったか振り返っても、Aさん単独の名義にするための妙案は思い浮かびませんでした。

2、相続登記の義務化
 令和6年4月から相続登記は義務化される予定です。
 先の例で、AさんBさんは不在者財産管理人制度の利用をためらって相続登記をしないまま過ごすと、義務化されてからAさんBさんの身に何か起こるのでしょうか。

 なお、相続登記の義務化についての条文(抜粋)は、次の通りです。

【改正不動産登記法】
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第76条の2
第1項 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

(過料)
第164条 
・・・第76条の2第1項・・・の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

 冒頭のAさんBさんを例にすると、AさんBさんともに相続登記の申請が義務付けられるものの、義務の履行期間内に申請できなかったことについて「正当な理由」があれば過料は科されないことになります。

 では、AさんBさんにとって、「遺産分割の当事者の一人Cが行方不明である」ことは「正当な理由」になるのでしょうか。ここで「正当な理由」が具体的に何を指すかが問題となってきます。

 「正当な理由」の具体的な類型を明らかにする通達等は現時点(令和4年6月)では発出されていません。
 しかし、立案担当者が執筆したある記事によると、以下のケースが想定されています(登記研究886号20頁)。

①数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、必要書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
②遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース
登記の申請義務がある者自身重病等の事情があるケース
④登記申請義務を負う者がDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶ状態にあって避難を余儀なくされているケースなど

 行方不明になっていることは③「重病等の事情」の「等」に含まれるのかなと一瞬考えたものの、AさんBさん自身が行方不明になっているわけではありません。AさんBさんは「重病等」ではないので③には該当しないと私は判断します。
 他の①②④とも違うと考えられます。
 ⑤経済的に困窮しているために登記に要する費用を負担できない場合も、事情いかんによっては「正当な理由」になり得ると紹介されていますが、これに該当するように思えますし、該当しないようにも思えます。

 結局、「正当な理由」についての通達等の発出を待たなければはっきりと分かりません。
 抽象論だと登記申請義務者に過料の制裁を科すことが本人にとって酷な場合は「正当な理由」に当たるはずですが、「正当な理由」かどうかの具体的な線引きは判断に迷います。

 まったくの仮定の話として、AさんBさんが相続登記の申請をしないで自分たちに過料が科されないか不安に思われて再度私を訪ねて来られる場合、「『正当な理由』があるかどうか判断しかねるので、過料が科されるかどうか当職は判断できない」と回答してしまうことは、司法書士としてどうなのかなと思ってしまいます。安心を提供できていないからです。

 過料対象になるかどうか判断が難しいケースがあることはその通りだと思いますが、合わせて「相続人申告登記」を紹介すべきと考えています。

3、相続人申告登記
 相続人申告登記とは、「相続登記等を申請する義務を負う者が、登記官に対し、対象となる不動産を個別に特定した上で、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその相続人である旨の申出をした場合に、登記官において所要の審査の上、申出をした相続人の氏名、住所等を職権で所有権の登記に付記するもの」をいいます。
 登記に関わる方以外の方が読んでも何のことやら分からないと思いますが、正確性のため定義を紹介しました。
 この申出により、申出人は相続登記等の申請義務を履行したものとみなされるので、過料は科されないことになります。

 この制度によると、たとえば相続財産である土地についてAさんがこの申出をすれば、その土地の登記簿にAさんの氏名、住所等が記録されることになります。
 AさんはBさんと一緒に申出をしなくても良いようになっています。他の法定相続人との共同申出でなくても良いという点では便利な制度です。もっとも、申出をするのがAさんだけなら、相続登記等の義務を履行したとみなされるのはAさんだけです。Bさんと行方不明のCさんは相続登記等の義務を履行したとはみなされません。

 注意すべきは、この登記は相続等による権利移転を登記するものではないということです。所有権の登記名義人に相続が開始したことと、その法定相続人とみられる申出人の住所氏名等が記録されるだけです。

 冒頭の例は、Cさんが行方不明なので、AさんBさんが、被相続人名義の不動産の名義をAさん単独にするための遺産分割ができないということでした。

 この例においても、AさんBさんは相続人申告登記の申出をしておけば相続登記等の義務を履行したとみなされるので、AさんBさんは相続登記の申請を怠ったことによる過料を科されるいわれはありません。

 だとすると、AさんBさんは、予納金の額が不安で不在者財産管理人の制度に二の足を踏んでしまいましたが、その制度を利用して遺産分割をしなくても、AさんBさんには過料の制裁から逃れる道は一応用意されているといえます。

 しかし注意点は、先にも触れたとおり相続人申告登記は相続等による権利移転を登記するものではないということです。遺産分割をしていないという事実も変わりません。

 将来的に不動産の名義をどうかしたいというなら遺産分割等をして新しい名義人を決め、それから相続登記を申請しなければいけません。
 そのため、相続人申告登記をする場合でも、別途遺産分割で名義人を決める必要があるなど、相談者が誤解しないよう説明する必要があるのかなと思います。


【参考 改正不動産登記法】
 (相続人である旨の申出等)
第76条の3
 前条(注:前出の第76条の2)第1項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、・・・登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2 前条第1項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第1項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3 登記官は、第1項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。
4 第1項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第1項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

 以上、最近勉強したことです。

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