「相続人みんなで亡くなった父親の遺産分割をしたいのに、相続人の一人と音信不通です。どうやって手続きを進めたら良いでしょうか?」
1、2つの方法
遺産分割協議をする前提として、①不在者財産管理人の選任または②失踪宣告の申立てのいずれかを選択する必要があります。いずれも家庭裁判所で行う手続きです。
それではどちらが良いのでしょうか?
どちらも一長一短ですので、依頼者にとってどちらのほうが良いのか、個々の事情に応じてよく考えなければなりません。
2、手続きにかかるお金はいくら?
それぞれの手続きにいくらお金がかかるのか、依頼者にとって大きな関心事です。
結論からいうと、①不在者財産管理人の選任手続きのほうが、②失踪宣告の手続きよりもお金がかかることが多いです。
というのも、①不在者財産管理人では、「予納金」を家庭裁判所に支払わなければいけないからです。②失踪宣告では、「予納金」を支払うことはありません。
この「予納金」というのは、不在者の財産の管理費用や、不在者財産管理人の報酬に充てるためのお金です。
「予納金」は、「管理に必要な金額(不在者財産管理人の報酬+事務費用)-不在者の預貯金等」という式で計算されます。
したがって、「不在者の預貯金等」が「管理に必要な金額」以上の金額であれば、理屈のうえでは「予納金」は不要となります。
しかし、預貯金等が不十分で「予納金」の支払いを求められるケースが多く、その金額は数十万円になることもあります。
「予納金」は、不在者財産管理人の業務が終了後に余っているならば返還されるものです。
しかし、多額のお金を用意しなければならないため、不在者財産管理人の選任手続きを選ぶのに躊躇してしまうのはもっともなことです。
3、死亡したものとみなされる?
お金のことを考えると、予納金が不要な失踪宣告のほうが良いようにも思えます。
しかし、失踪宣告するとどうなるかをきちんと理解しておくべきです。
「失踪宣告」という言葉はテレビや新聞などで目にするくらい日常用語として浸透していますが、法律的には、失踪宣告により行方不明者は死亡したものとみなされます。
「死亡したものとみなされる」とはどういう意味でしょうか?
それは、実際には(物理的には)どこかで本人が生存していても、法律的には死亡したものと扱うということです。
具体的には、本人の戸籍には、死亡とみなされる日が記載され、本人について相続が開始されます。本人が既婚の場合、その配偶者は本人が死亡したと扱われる以上、再婚することができます。重婚にはなりません。
実際にはどこかで生きているかもしれず、そこに希望を託している親族にとっては、本人の戸籍に「みなし死亡」が記載されることへの抵抗感は強いと思います。
これに対して、①不在者財産管理人の選任では本人死亡とみなされるわけではありません。本人は「不在者」扱いです。
4、最後に
行方不明者がいる場合の遺産分割協議について考えることがあり、依頼者への提案にあたり、上記のようなことを考えました。
なお、①不在者財産管理人、②失踪宣告は他にも違いがあります。例えば、
・行方不明の期間の長さによっては①しか使えない(普通失踪に必要な期間は7年)
・不在者の債権者は①しか使えない
・家庭裁判所の審判までの期間について、①は約2~3か月、②は1年程度みておく
というものです。
しかし、特に大切なポイントは、予納金が必要かどうか、戸籍にみなし死亡が記載されてよいかどうか、ということと私は理解しています。
そのため、行方不明者がいる場合の遺産分割協議のご相談にあたっては、これらの点について依頼者に十分説明し理解を得たうえで、どちらの手続きを進めるか依頼者の判断を仰ぐようにさせていただきます。
広島県福山市駅家町大字万能倉734番地4-2-A
佐藤正和司法書士・行政書士事務所
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