【信託】後見制度支援信託

2022年12月10日 19時00分 民事信託 成年後見

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広島県福山市の相続登記・成年後見は佐藤正和司法書士・行政書士事務所へ!
司法書士・行政書士の佐藤正和です。

私が後見人を務めている案件の一つに「後見制度支援信託」を検討中のものがあります。

1. 「後見制度支援信託」とは
被後見人の中には、たくさんの現預金を所有している方もおられます。
後見人はその方の財産を守るべきなのですが、あろうことか被後見人の財産を自分のために使い込んでしまう人もいます。このような使い込みは業務上横領罪に問われる行為です。

統計上、使い込み事件の件数のうち専門職後見人よりも親族後見人が使い込みをすることが多く、そのため最高裁判所は後見制度支援信託の導入目的は「親族後見人の不正行為の防止である」と説明しています。

そのような「不正行為の防止」という目的を達成するにはどうすれば良いでしょうか。
親族後見人の手元にあるお金を少なくすれば良いのです。使用する予定がないお金は親族後見人が自由に使えないようにします。
その手法として「後見制度支援信託」があります。信託銀行に「被後見人の財産の一部(使用する予定のないお金)を信託」することで使う予定がない現預金を信託銀行の管理下に置きます。

前述のとおり、この信託の目的は「親族後見人の不正行為の防止」ですが専門職が後見人に選任されている場合でも利用される場合があります。

2. どうやって信託契約を結ぶ?
家庭裁判所が後見人に信託契約の締結を指示する指示書を交付し、それにしたがい後見人が「後見制度支援信託」を扱う信託銀行と後見制度支援信託契約を締結します(※1)。

3. 具体的な内容
次の4点がポイントです。

①信託する財産は金銭のみ

②定期交付金の設定ができる
毎月の収支が赤字の場合、信託した金銭の中から一定額が、定期的に、後見人管理の預貯金口座に入金されます。そうすることで、毎月の赤字を補てんします。

③一時金を受け取れる

施設に入るための入居一時金、自宅のリフォーム費用などの臨時の支出に対応する必要がある場合、信託銀行から一時金の払戻を受け取れます。払戻しは後見人管理の預貯金口座に入金することで行われます。
ただし、家裁が発行する指示書が必要です(※2)。 

④追加信託

毎月の収支が多額の黒字であるなどの事情により親族後見人が管理する現預金が多額になった場合、家裁に指示書を交付してもらい信託銀行で追加信託の手続きをします(※3)。

後見制度支援信託」は成年後見制度の枠内で利用される信託です。
この信託によって一定額の金銭が親族からいわば「隔離」されるわけですから、「後見制度支援信託」を締結するにあたっては説明を丁寧にして親族の理解を得るようにしています。

4. 後見人が指示書に従わない場合
ある親族後見人から「家庭裁判所に後見制度支援信託を利用するよう指示されたが従う必要があるか」という相談が寄せられたことがあります。

事情を尋ねると「不正を働くつもりはない場合でも後見制度支援信託をしなければいけないのか」ということでした。

家庭裁判所からの指示に従わないという事案を私は扱ったことがないので経験で語ることができません。

しかし、私の手元にある書籍では「指示に従わない場合は後見監督人が選任される」とされています。

後見監督人が選任されれば、後見監督人から後見事務等に関し調査される(民法863条)ほか、被後見人の財産から後見監督人に報酬を支払う(同862条及び852条)など新しい課題が生じます。

そのことを踏まえ、それでも家庭裁判所の指示に従わないつもりでいるのか判断しましょう。


※1 当職が取り扱った事案
被後見人の親族と当職とが後見人に選任され、親族の方が被後見人の身上監護、当職が被後見人の財産管理事務にあたった事案がありました。

後見制度支援信託は財産管理にあたるので、当職が某信託銀行との間で後見制度支援信託の契約を締結しました。

当職が後見人に選任された時点で後見制度支援信託の手続きが完了したら当職は後見人を辞し、もう一人の(親族)後見人に財産管理事務を引き継ぐこととされていたので、上記信託手続きを終えた後、そのとおり当職は後見人を辞任しました。


※2 家事事件手続規則
(成年後見人に対する指示等)
 第八十一条 家庭裁判所は、いつでも、成年後見人に対し、成年被後見人の療養看護及び 財産の管理その他の成年後見の事務に関し相当と認める事項を指示することができる。


※3 追加信託について(2024(令和6)年7月30日追記)
追加信託について次の例を補足します。
Aさんが死亡したためAさんの預金相続手続きをしたいというご依頼がありました。
相続人のBさんは成年被後見人で、その成年後見人を務める方からのご依頼です。



1. 信託専用口座への振込み
Bさんは数千万円の預金を有しており、そのうち数百万円を普通預金口座に預金していました。

残りの金銭については「後見制度支援信託専用口座」に預けており、成年後見人単独でその口座にある預金を払戻しできないようにしていました。

相続手続きでAさんの預金をBさんの口座に振り込むことにしました。

Bさんは普通預金口座と後見制度支援信託専用口座を持っていますが、「家庭裁判所の発行する指示書」がないまま後見制度支援信託専用口座への振込み(金銭の追加信託)をすることはできません。

本文で触れたとおり、一般的に後見制度支援信託における追加信託は家庭裁判所の指示書を必要とする運用がなされています。

信託銀行とBさんとの間の約定書においても、金銭の追加信託を申し出るには家庭裁判所の発行する指示書が必要と定められています。

2. 追加信託手続きを代理できるか
親族後見人の方から、追加信託の手続きを代わりにしてほしいというご依頼をいただいたことがあります。

親族後見人にとって追加信託の手続きは不慣れだと思いますので司法書士に依頼したいという気持ちも分かります。ご依頼があれば司法書士が追加信託の手続きを代理で行うことは可能です。

しかし、追加信託の手続きは後見人自身が財産管理事務として行うことです。
司法書士など第三者に委ねることは後見事務として適切か疑問ですので追加信託手続きを専門家に任せたい場合にはあらかじめ家庭裁判所に相談するほうが良いでしょう。


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