1、不動産を処分したい
成年後見人が被後見人の生活費等を工面するために、被後見人本人の不動産を売却してその代金を確保したいということがよくあります。
この不動産が「居住用の不動産」の場合、成年後見人は売却に先立ち、売却処分について「家庭裁判所の許可」を得なければなりません。
仮にこの許可を得ることなく売却をしても、その売買契約は無効です。そうすると、不動産を購入するつもりだった方に迷惑をかけるどころか、買主が改装費など一定の支出をしていたときには、買主が成年後見人に対して支出分の損害賠償を請求することも考えられます。
2、居住用不動産とは?
そうすると、その不動産が「居住用の不動産」かどうかの判断が大事になってきます。
この判断については東京地裁平成28年8月10日判決が示しています。
それによると、居住用不動産には、「現に被後見人が居住しておらず、かつ、居住の用に供する具体的な予定がない場合であっても、将来において生活の本拠として居住の用に供する可能性がある建物であればこれも含まれ」ます。
ここから読み取れることは、東京地裁は「居住用の不動産」の定義を広く解釈したということです。
すなわち、
①現に被後見人が居住している不動産は「居住用の不動産」である。
②居住の用に供する具体的な予定がある不動産は「居住用の不動産」である。
のみならず、
③将来において生活の本拠として居住の用に供する可能性がある建物も「居住用の不動産」である、ということです。
このように「居住用の不動産」の定義を広く解釈した趣旨は、被後見人に住み慣れた場所を確保することで被後見人を保護するためと考えられます。
たとえば、施設から退所したところで、帰るはずの場所が住み慣れた所ではなかったならば本人にとっては将来の生活が不安でしょうし、認知症などの進行にも悪影響が出ます。
3、居住用かどうか判断に迷ったら?
そうはいっても、上記の東京地裁が示した判断基準だけでは具体的なケースで「居住用の不動産」かどうか簡単に判断できるものではありません。
そのため、被後見人の不動産を処分する予定がある場合には、その不動産が「居住用の不動産」に当たるかどうか家庭裁判所に相談するのが賢明です。
私の場合、家裁との相談の際には自分の意見と不動産に関する資料を添えて家庭裁判所を訪ねるようにしています。
もし「居住用の不動産」にあたるなら、前に触れたとおり「家庭裁判所の許可」を得る手続きに進みます。
許可申立てに必要な資料や、実際に許可が得られるまでの期間についても注意が必要です。
4、許可申立てに必要な資料
居住用不動産の売却の場合、以下の書類を家裁に提出する必要があります。
①申立書
②収入印紙800円
③郵便切手84円(審判書謄本を郵送で受け取る場合)
④不動産の全部事項証明書(謄本)
既に提出しており、記載内容に変更がないならこれを提出する必要はありません。
⑤不動産の売買契約書案
「案」で問題ありませんので、契約当事者の押印までは不要です。
こちらは、不動産業者の方が仲介で入っている場合には、不動産業者の方が用意しています。その方に相談して契約書案を預かるようにしましょう。
なお、個人的な経験ですが、押印まで不要なのにわざわざ不動産業者の方がすでに印鑑が押された契約書までも用意したことがあり、それを家裁に提出すると「印鑑まで押されたんですか!?」ときょとんとされたことがあります。
必ずしも許可が下りるとは限りません。不許可の場合には、印鑑を押してもらっても無意味です。なんでそんなことまでやってるの?ということで、きょとんとされたのかもしれません。
ただし、買主の氏名・住所は、許可の審判書に記載するために正確に記載されていなければいけません。
⑥当該不動産の評価証明書(最新年度のもの)
⑦不動産業者作成の査定書
査定書は不動産業者の方が持っているので、その方に問い合わせて用意してもらいましょう。
5、期間
居住用不動産の許可審判の申立てから許可までは、およそ3~4週間かかります。不動産決済のスケジュールを組み立てる際には、この3~4週間の余裕を念頭に置くべきです。
6、最後に
居住用不動産の処分については、家庭裁判所に相談せずに手続きを進めてしまうと成年後見人の責任問題に発展する可能性があります。また、予定した時期に居住用不動産を処分できないという事態もあり得ます。
そうならないよう、司法書士や不動産業者の方に相談して手続きを進めることをおすすめします。
広島県福山市駅家町大字万能倉734番地4-2-A
佐藤正和司法書士・行政書士事務所
TEL084-994-0454
お問い合わせはこちら